日本ソフトウェア科学会ISS研究会主催の第17回インタラクティブシステムとソフトウェアに関するワークショップ WISS 2009で、ソネット賞銅賞を受賞しました。 English ->SmoothCurtain-English
遠隔コミュニケーションには,大きく2 つの手法がある.
まずひとつめは,電話やビデオ会議システムのように音声や映像を用いて会話をする手法である.この手法では,音声や映像の豊かな情報によって,相手と直接的にコミュニケーションを取ることができるが,利用場所や時間が制限されるため,常時利用が難しいという短所を持つ.また,人によって日常生活の中でビデオチャットシステムを開始するまで敷居が高いという問題もある.
そしてふたつめは,反対の性質を持つアンビエントなコミュニケーション手法である.音や光を用いて,適度に相手と同期している感覚を得ることができ,日常生活の中で無意 識的にコミュニケーションをとることができる.しかし一度に伝達できる情報量がとても少ないため,相手と直接的なコミュニケーションをとることはできない.
一般に,この2 つの手法は別々のシステムとして提供されるため,生活空間における状況の変化に応じてコミュニケーションの形態を柔軟に調節することが難しい.
本研究では,直接的なコミュニケーションとアンビエントなコミュニケーションを直感的な操作で柔軟に調節できる手法「なめらカーテン」を提案・試作した.
なめらカーテンでは,日常生活で我々が何気なく行なう行動として,カーテンを開けたり閉めたりする方法に着目した.カーテンのスムーズな開閉操作をコミュニケーション手法の変化に対応させることで,直感的かつ連続的な操作を可能にした.
日常生活において,我々は外部の視線からプライバシーを守りたいと考えたとき,カーテンを閉めて家の中の様子を隠す.カーテンを閉めたとき,自分の家の中の様子は外部から見られることはなくなるが,時間によって変化する外の明るさや,窓の前を通り過ぎていく人の影などのアンビエントな情報は得ることができる.
本システムではカーテンを開いた状態をビデオチャットシステムに,カーテンを閉めた状態をアンビエントなシステムに対応させた.こうすることで,カーテンの開閉に応じて,直接的なコミュニケエーションからアンビエントなコミュニケーションに滑らかに変化する.
カーテンを用いた操作を可能にするコミュニケーションデバイスとして,図のよ うな「なめらカーテン端末」を試作した.この端末を2箇所に設置することで常時ビデオチャットを行いつつも,端末のディスプレイの前についたカーテンの開け閉めによってプライバシーの制御やコミュニケーションの形態を変化させることができる.
たとえばユーザーA とユーザーB の2 人がこのシステムを使用すると仮定する.まず,双方のカーテンを開いた状態でユーザーA が本システムを用いると,ディスプレイにはB の映像が映り,スピーカーからはB の音声が聞こえてくる.B が本システムを用いた場合も,A の映像/音声が再生される.
ここで,A がカーテン部分を閉めると,ディスプレイに表示されているB の姿はカーテンに隠れて見えにくくなり,B のディスプレイにはぼかしフィルタのかかったAの映像が表示される.このとき両者は直接的なコミュニケーションから,間接的なコミュニケーションへと自然に遷移する.カーテンの閉め具合に応じて,ぼかしフィルタの効果は徐々に 強くなる.
このように,自分の映像を相手に送りたくないときはカーテンを閉じるだけで良く,一方的に相手を覗き見ることができない.同時に音声も制御され,相手側に自分側の声を送られなくなるため,お互いのプライバシーを簡単に保護することができる.