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InfoBinderの紹介

椎尾一郎(しいおいちろう)
日経エレクトロニクス 1996.1.1号、pp99-106で紹介されました。

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InfoBinder: 仮想デスクトップの小道具

1. はじめに.

 
現実の作業空間に、計算機が生成したグラフィック情報を重ね合わせて表示する仮想現実システムが多く提案されている。このようなシステムでは、現実世界のオブジェクト(実オブジェクト)と、計算機が生成する仮想世界のオブジェクト(仮想オブジェクト)それぞれの特色を生かして、使いやすく効率的な作業空間を提供することをめざしている。たとえば、作業机の上に計算機で作成した電子的な書類、電卓などの仮想オブジェクトを投影する仮想デスクトップシステム[1]では、電子的な仮想オブジェクトの利便性を、通常の机上の作業に導入しようとしている。本研究では、このようなシステムに於ける次の二つの課題に着目した。

  • 仮想オブジェクトは、投影された像であるので、手ごたえがなく、操作が難しい。
  • 実オブジェクトと仮想オブジェクトが、結びつき、協調して機能する様子を、直接的に表現するメタファーを導入したい。


本発表では、仮想オブジェクトを効率的に操作する目的で、仮想オブジェクトと現実世界の橋渡しをするデバイス、InfoBinderを提案する。

2. 仮想デスクトップ

 
InfoBinderを使用する仮想現実システムの一例として、仮想デスクトップシステムを考える。これは、現実の作業机上に、いわゆるデスクトップメタファーに基づく仮想環境を投影する図1に示すシステムである。使用者は、作業机の上の電話機などの実オブジェクトと、投影された書類、フォルダ、データベースオブジェクトなどの仮想オブジェクトを、複数のInfoBinderデバイスにより操作して事務作業を行う。
投影装置とカメラ装置は、 Proxima 社の Data Display と Cyclops System を使用した。これを150X80cmの作業机の上方140cmに設置して、計算機画面を机上に投影した。


図1. 仮想デスクトップシステムの概要。電話機などの実オブジェクトの置かれた作業机の上に、仮想オブジェクトを投影する。InfoBinderは、仮想オブジェクトを (1)操作する機能と、(2)紙ばさみのように保持する機能を持つ。上方のカメラでInfoBinderは位置検出・識別される。

仮想オブジェクトは、アイコンとウインドウの二通りの形態をとる。アイコンは、扱いが簡単なように、閉じた状態のオブジェクトである。ウインドウは、オブジェクトの内容を閲覧・操作するために、開いた状態のオブジェクトである。

3. InfoBinderデバイス

 
InfoBinderは、位置情報をシステムに伝達する指示装置である。また、個々のデバイスはシステムにより識別可能で、複数のデバイスを同時に使用することができる。このデバイスは、次の二通りのモードで使用する。

  • 1. ポインターモード
    初期状態である。従来のデジタイザのような指示装置として働く。ウインドウ状態の仮想オブジェクトを直接操作するモードである。ボタンやメニューによりウインドウを閉じる操作をすると、バインダーモードに移行する。
  • 2. バインダーモード
    ウインドウを閉じると、仮想オブジェクトはアイコンになり、閉じる操作をしたInfoBinderに結びつく。これは、紙ばさみが紙を保持することのメタファーである。アイコンになった仮想オブジェクトは、InfoBinderに追随する。これをダブルクリックにより開くと、ウインドウの状態になり、ポインターモードに移行する。


InfoBinderデバイスの実現例を、図2に示す。これは、押しボタンスイッチを備えたマウスよりも小型のデバイスである。押しボタンスイッチを押すと、LEDが点灯する。これを仮想デスクトップシステム(図1)の上方のカメラで検出して位置を割り出す。デバイスには、固有の識別番号が割り当てられる。LEDの点灯は、識別番号により変調されるので、個々のデバイスが識別できる。


図2. InfoBinderの実現例。情報を手にとって直接操作するための小型の指示デバイスである。押しボタンスイッチを押すと、LEDが点灯する。これを上方のカメラで検出して位置を割り出す。デバイスには、固有の番号が割り当てられる。点灯は、この番号情報により変調され、個々のデバイスを識別できる。電話機などの実オブジェクトに張り付けて利用することもできる。

4. 電話帳オブジェクトへの応用例

 
つぎに、電話番号を検索・ダイアルする仮想オブジェクトである、電話帳オブジェクトの例を用いて、動作の詳細を説明する。電話帳オブジェクトを保持した、バインダーモードのInfoBinderを、図2のようにマジックテープ等で電話機に張り付けておく。実世界で、紙ばさみに電話番号一覧の書類を束ねて、これをマジックテープで電話機に張り付ける動作のメタファーである。電話帳オブジェクトを使用するためには、InfoBinderを電話機から外して、これを机上に置く。押しボタンをクリックしたり、ドラッグすると、電話帳オブジェクトのアイコンが追随して移動する(図3)。このように、紙ばさみを持って電話帳を移動するかのように、仮想オブジェクトを、手ごたえを得て動かすことができる。


図3 仮想オブジェクトを閉じると、バインダーモードになり、アイコンがInfoBinderに追随して移動する。紙ばさみが、情報の書かれた紙を保持する状態に相当する。

机上の適当な場所で、押しボタンをダブルクリックすると、その場書に電話帳オブジェクトが開かれて、表示される(図4)。いったん、電話帳オブジェクトが机上に開かれると、このデバイスは通常の指示装置として働く。この状態で、電話帳オブジェクトの、検索ボタンや、自動ダイアルボタンを操作して、電話をかけることができる。電話帳オブジェクトを閉じる操作を行うと、再びオブジェクトがInfoBinderに結び付けられる。


図4 仮想オブジェクトを開いてウインドウにすると、InfoBinderはポインターモードになり、従来の指示装置と同様に直接操作出来る。ここでは、電話帳オブジェクトを保持したInfoBinderを電話機から取外し、オブジェクトを開いて自動ダイアルしている。

5. InfoBinderの特長

 
最初に述べた課題に対して、InfoBinderは、次のような特長を持つ。
  • 1. アイコンになった仮想オブジェクトは、InfoBinderに結びつくことで、手応えのある実体を得る。この結果、机の上で整理する、引き出しにしまう、ネットワーク接続された他の場所へ運搬する等の、操作が容易になる。
  • 2. 実オブジェクトと仮想オブジェクトは、それぞれの特性を生かして、協調できる。先の例では、扱いやすい簡素な電話機に、強力なオンライン電話帳機能が加わった。InfoBinderは、実オブジェクトの機能拡張を、アイコンを貼るという直感的でわかりやすい操作で実現する。

 

[1] Pierre Wellner, "The DigitalDesk Calculator: Tangible Manipulation on a Desk Top Display"UIST '91, November 11-13, 1991. Hilton Head, South Carolina.


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