●FieldMouse: 実世界を指示するマウス

by 椎尾一郎(全人教育1999.7, No. 613, p.未定)
玉川学園同窓会、父母会向け雑誌

●実世界指向インタフェース

画面に表示されたメニューやウィンドウをマウスとキーボードで操作する現在のコンピュータに代わる、新しいコンピュータが、さまざまな研究者から提案されています。その一分野に実世界指向インタフェースを使ったコンピュータがあります。これは実世界での人の行動をきっかけに、コンピュータの中の情報を操作しようという考えです。

実世界指向インタフェースの実験の多くは、人の位置や行動を、ビデオカメラや高価な位置検出装置を使って認識してコンピュータに入力しています。実用化のためには、実世界の位置を安価に入力できる装置が必要です。

●FieldMouse: どこでもタブレット

そこで、普通の紙や壁がペンタブレット(特殊な板をペンで触ると、板上の位置が入力されるコンピュータ入力装置)のように使えるようになる、新しい入力装置FieldMouseを考案し、試作しました。FieldMouseは、バーコード・リーダーなどのID検出装置と、マウスのような位置検出装置を組み合わせた入力装置です。図1に示す試作品では、ペン型のバーコード・リーダーと機械式マウスを合体させています。ジャイロを使って空中で操作できる試作品も試験しています。


図1 FieldMouse

この装置のバーコード・リーダー部で、紙や壁などの平面に貼られたバーコードを読み取った後、平面の上で移動させると、マウスからの情報によってバーコードからの相対位置がわかります。したがって、あらかじめバーコードの位置がわかっている場合には、FieldMouseの絶対座標が得られます。つまり、普通の紙や壁にバーコードを貼るだけで、それらをペンタブレットのように使うことができるのです。

●Active Book: 音の出る絵本

図2は、FieldMouseの応用例として試作した音の出る絵本です。絵本のページの隅にバーコードが貼りつけてあります。これをFieldMouseで読み取った後、絵本の上を移動させて登場人物などを指し示すと、その台詞や効果音を聞くことができます。普通の紙の絵本のページにバーコードを一つ貼りつけるだけで、ユーザが指し示した位置に埋め込まれた情報を提示するマルチメディア絵本になります。


図2 Active Book
(C) 1994-1999 The Learning Company and Mark Schlichting (C) 1987, 1994 Marck Schlicting

絵本以外の応用として、例文を指し示すと読み上げてくれる語学教材、番組を指し示すと録画予約してくれるテレビ番組雑誌なども作れるでしょう。また、音声以外に、例えばインターネット情報へのリンク情報を貼りつけておくことも可能です。イベント案内を指し示すと、関連ホームページをパソコン画面に表示するイベント情報雑誌も実現できます。

●Scroll Browser: 壁の中ディスプレイ

人が暮らしている実世界に、コンピュータに格納された情報を提示しようという手法を、拡張現実感 と呼んでいます。例えば眼鏡型のディスプレイを掛けて世の中を見ると、壁の中の配線の様子や、機械のスイッチの説明が表示されるなどの応用が実験されています。

図3は、FieldMouseを使用した簡易型の拡張現実感システム、Scroll Browserを操作している様子です。壁のところどころに貼られたバーコードをFieldMouseで読み込み、壁の上で移動させると、その場所の壁の中の構造や電気配線の様子が手元のディスプレイに表示されます。FieldMouseを移動すると表示内容が反対方向にスクロールするので、この装置を使って壁の中をのぞき込んでいるかの感覚を実現します。


図3 Scroll Browser

どこの壁でも、バーコードを貼るだけで実現できる手法ですので、応用できる場面は広いと考えています。壁以外に、床や機械に貼って内部の情報を表示したり、人体に貼って人体の内部を表示して教材として使うなどの応用も考えられます。

なお、Scroll Browserは、昨年秋に大阪で開催された国際会議AMCP'98 Dynamic Media Contest に出品して二位入賞しました。

●ペンで家電を操作する

FieldMouseを使えば、わかりやすいイラストや説明が印刷された紙の上をなぞって機械を操作することを実現できます。だれでも簡単に使えることを目指している家電製品の操作手法として有望でしょう。そこで、ソニー・コンピュータサイエンス研究所と家電製品のコントロールなどを目指した共同研究をすすめています。

図4は、ビデオ切り替え機に接続された複数の装置がイラストで印刷された紙リモコンの例です。例えば、ビデオカメラからテレビモニターに映像を送りたい場合には、対応するカメラのイラストからモニターのイラストへ向けてFirldMouseを移動します。信号の流れに沿って線の上を移動させると切り替えが実現されるので、機器の操作が直感的に行えます。


図4 紙リモコン

随筆リストへ戻る