●身体を使ったネットワーク

by 椎尾一郎(日経パソコン1997.12.29, No. 304, p.???)

 モバイル機器を駆使すれば、世界中どこからでもLANにアクセスできる、ワイドエリアのネットワークが可能です。その一方で、個人の身体を媒体にしたパーソナルエリアネットワークの研究もすすめられています。

 人の知的活動を支援するコンピュータ付きの靴を考えてみましょう。靴は外出先で常時身につける道具で、しかも体積や重量に余裕があるので、「着る」コンピュータを組み込むのに適した場所と考えられています。しかし、情報の表示や入力を行うには、あまり良い場所ではありませので、例えば腕時計型の表示装置を別に用意することにします。このように身体のあちこちに取りつけたコンピュータ装置の間で通信する手段として、身体の皮膚表面に流す微弱な高周波電流を使ったネットワーク(PAN: Personal Area Network)が研究されています。数百kHzの高周波に対して、皮膚の表層は良い導体になるそうで、人体に無害な微弱電流を使っての情報伝達が可能だそうです。この手法は、身体をコンピュータのバスのように利用することから、ボディバスとも呼ばれます。

 身体の接触を利用した外界とのネットワークも可能です。例えば、握手することで相手が着ているコンピュータと名刺交換を行なうことが可能です。一日が終わった後で、その日に会った人のリストを、自分の靴に教えてもらうことができます。

 個人の認証にも利用できるでしょう。ドアのノブに触れるだけで、着るコンピュータによって認証が行なわれて、自動的に錠を外してくれるセキュリティシステムも可能です。また、受話器を手にしただけで、クレジットカードの認証が行なわれて、クレジットコールができる電話を作ることもできます。

 握手の習慣のない日本では、満員電車に乗り合わせた人達のネットワーク手段として使えるかもしれません。

URL:PANの研究を紹介しているサイト

http://www.research.ibm.com/research/pan.html

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