●着るコンピュータ

by 椎尾一郎(日経パソコン1997.12.15, No. 303, p.469)

 現在のモバイルコンピューティングの次にやってくるコンピュータ利用形態が、身につけて使うウェアラブル(着る)コンピュータです。現在試作されているウェアラブルコンピュータは、ベストのポケットやウェストポーチのなかに本体が収まり、キーボードなどの入力装置が腕に取り付けられ、眼鏡のような表示装置(イヤフォンのように個人だけに情報を提供することから、アイフォンとよばれることもあります)にさまざまな情報を表示します。アイフォンは、片目あるいは両目に装着します。バーチャルリアリティの装置で使われるディスプレイと違って、両目装着の場合も、外の景色にコンピュータの表示を合成する工夫がされているので、装着しても通常の生活が可能です。

 片目に装着したアイフォンを通して膨大なマニュアルの検索結果を表示することで、車両・飛行機などのメンテナンス作業を支援しようという研究があります。マニュアルを見ながら、同時に保守作業が行なえるので効率が良いのです。また、眼鏡に装着したテレビカメラで出会った人の顔を撮影して、顔データベースを検索して、相手の名前をアイフォンの中に表示するシステムも試作されています。人の名前がなかなか覚えられない人にとっては朗報でしょう。アイフォンを装着してプリンターや複写機を見ると、中の構造や保守の方法が実写に重ね合わされて図示されたり、建物の壁を見ると、内部の配管や説明が見えてしまう装置も作られています。

 机に置くコンピュータは、デスクワークの場面で人の知的活動を支援する道具でした。これに対して、身につけるコンピュータは、実世界のあらゆる場面で、常時人の知的活動を支援することができます。これは、眼鏡や補聴器が人の視力、聴力を強化させる道具であることと同様に、ウェアラブルコンピュータは人の知的能力を強化させる道具といえます。いつでも膨大な量の文書を検索できる装置を身に着けた人は、文字どおりの生き字引になって、自分の記憶力を強化させたことになります。何千人もの人の顔と名前が解ってしまう能力も手に入ります。また、機械の中の構造や、壁の向うの配管が、開けるまでもなく見えてしまう道具は、人の認識力を強化する道具と考えることができます。

URL:ウェアラブルコンピュータの研究

http://lcs.www.media.mit.edu/projects/wearables/
http://www.cs.cmu.edu/afs/cs.cmu.edu/project/vuman/www/home.html

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