●うっかりミスを誘うデザイン

by 椎尾一郎(日経パソコン1997.10.20, No. 299, p.297)

 こんな経験はありませんか。巨大駐車場で自分の車のドアを開けようとしたけど、なぜか鍵が合わない。スペアの鍵を使ってもだめ。そこで助手席のドアを試そうと回り込んだら、モデルと色は同じだけど、なんと自分の車じゃなかった。

 お茶の缶のふたを取って、急須のふたを取って、お茶の葉をいれたあと、缶にふたをしようとしたら、手に持っていたのは急須のふたであった。

 アップル社フェロー(社友)でもあった認知科学者のドナルド・ノーマン(現在は米ヒューレット・パッカード社研究所)の著書「誰のためのデザイン?」(新陽社)では、こうしたうっかりミスの例をたくさん分析しています。ミスの原因には、いろいろな認知・心理的要因がありますが、大きな要因に、「似たものが近くにある」ことによる混乱があげられます。二つの物が、近くにあればあるほど、似ていれば似ているほど、取り違えやすいのです。医療機器、航空機、原子力設備のような装置に取りつけられた、形状の似た近接したスイッチが、誤操作による重大な事故を引き起こすこともあります。

 対処方法は簡単です。取り違えられることが、重大な誤操作につながるようなスイッチは、できるだけ離して、色、形、素材、手触りを変えて配置することです。



 そこで、Windowsのタイトルバーを見てみましょう。右端に、3個のボタン(ボックス)があります。左から、「タスクバーに項目を残して閉じる」「サイズを変える」「ウィンドウを閉じる」ためのボタンです。ボタンが大変近接しているので、サイズを変えようとして誤って閉じてしまった経験を持つユーザが大変多いと思います。



 二番目の図は、Mac OS7のウィンドウです。タイトルバー左端に「ウィンドウを閉じる」、右端に「サイズを変える」ボタンがあります。二つのボタンは全く機能が違うのですが、可能な限り離れて配置されていますので、誤って操作することが少ない良い設計と言えます。



 三番目の図は、Mac OS8のウィンドウです。右端に「サイズを変える」「タイトルバーだけの表示にする」ボタンが並んでいます。タイトルバーだけにするためには、タイトルバーのダブルクリックやメニュー操作でも可能なので、隣接したボタンとして追加された設計はすこし残念です。誤って操作するユーザは多いでしょう。救いといえば、誤って操作しても、似た機能のボタンなので、致命的な間違いにはならず、もう一度クリックすることですぐに復帰できることです。

 

URL:ドナルド・ノーマンに関するURL

以前はhttp://www.atg.apple.com/に立派なホームページがありましたが、転職によりなくなってしまったようです。著書を元にしたCD-ROMをVoyager社が出しています。

http://www.voyagerco.com/cdrom/educational.cgi?norman

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