●実世界指向インタフェース

by 椎尾一郎(日経パソコン1997.10.6, No. 298, p.???)

 未来のコンピューターは、現在のコンピューターのイメージとは違うものになるでしょう。ディスプレイのなかの世界を、GUIの手段で操作するのではなく、コンピューターの外の世界での人の行動がコンピューターの中の世界の変化に密接に結びつく、実世界指向ユーザーインタフェースが主流になると考えられています。

 たとえば、今のGUIでは、画面のなかにフォルダや書類を置いて、情報を整理しています。画面の中には、あたかも机の上であるかのように物が置かれていますが、それはあくまで比喩(デスクトップ・メタファー)であって、実世界のフォルダや書類とは関係がありません。一方、実世界指向の利用方式では、実世界の書類、フォルダ、書類棚の状況がコンピューターで把握されて、実世界で書類を動かすことで、コンピューターのなかの情報を動かす操作が実現されるかもしれません。

 現実の机の上を、コンピューターのデスクトップ・メタファーに連結しようというシステムは、いろいろな大学・研究所で実験されています。その一つに、通常の事務机の上方に、投影型のコンピューターディスプレイを設置して、コンピューターの画面を机の上に投影する方式があります。机の上には、本物の書類やフォルダや文房具が乗っているのですが、それに加えて、コンピューターの画面に出てくる、書類、フォルダのアイコンとウィンドウが表示されます。机の上で、現実世界の物と、コンピューターが作り出した仮想の物が同居します。従来、比喩であったコンピューターの中のデスクトップが、現実世界のデスクトップと同居して、現実の机の機能を強化します。机上に同居した現実と仮想の物の間で、情報を交換する手段を提供すれば、それぞれの良いところを組み合わせた新しい知的作業環境を作り出すことができます。

 写真は、私が数年前に試作したコンピューター強化机の実験風景です。机の上には、本物の電話機と、投影された電話帳プログラムのウィンドウが同居しています。これにより、単純な操作の場面での本物の電話機の使いやすさと、複雑なデータベース操作の場面でのコンピューター画面の使いやすさを同時に実現しています。


コンピューターによって機能を強化された机の実験。
机の上にコンピュータの画面が投影されている。

URL:現実指向ユーザインタフェースの研究

http://www.csl.sony.co.jp/project/ar/ref.html
http://www.edp.eng.tamagawa.ac.jp/~siio/infobinder.html

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