Report Vol. 7

第7回:関係者へのインタビューその2

今回は訪問先の関係者へのインタビュー内容を、いくつか紹介します。
このページには写真がありません。ダラダラと文字ばっかりでスミマセン。

■ コンピュータサイエンス学科 教員 ■

学科の某先生に、大学院生の研究生活について、いくつか質問をして回答を得ました。 以下、その内容について大雑把に紹介します。

研究室の選び方について。
大学院生は学生生活の大半を研究室で過ごします。 ここデービス校では、必ずしも全ての学生が入学と同時に研究室を選ぶ、というわけではないようです。 中には入学時点では研究室を決めずに、いくつか講義を受けてから研究室を選ぶ、という場合もあるようです。 また希望者の多い研究室や、予算に余裕があって多くの学生を受け入れられる研究室の場合にも、 教授が学生をピックアップするなどの方法で、入学後に研究室を選ぶ事例があるようです。
※日本の大学では、入学後に研究室を移りたいと学生が思っても、教授に言い出しにくいなどの理由で、 そのまま移らずにいる事例がある、と聞きます。もし事実だとしたら、それは非常に融通の利かない状況であろうと思います。 デービス校の制度がそのまま日本の大学で参考になるとも思えませんが、 それにしても、もう少しフレキシブルな運用ができたほうがいいのでは、と思います。

研究室の所属人数について。
多くの場合において、研究室に所属する学生の人数は、予算をどれくらい持っているか、で決まるそうです。 アメリカの大学の場合、予算を多く持っている研究室は、学費や生活費を学生に支給する習慣がありますから、 予算に比例して学生が集まるのも理解できるような気がします。 ただ、予算のある先生ほど、有名な忙しい先生である場合が多く、学生をたくさん抱えているのに学生と対話する時間がない、 という矛盾した状況を抱えているのは日本でもアメリカでも同じのようです。
※私はたいして有名ではないけど、研究室に学生はたくさんいるので、他の先生以上に学生との対話に時間をかけないとバチがあたるなぁ、と実感しました。

研究テーマの決め方について。
学生の研究テーマは、多くの場合において、教授との話し合いによって決まるそうです。 研究室に配属になって最初のうちは、学生は研究に対して初心者なので、教授がテーマを与えることが多いが、 徐々に研究テーマを自分で見つけられるように教え込み、ある時から学生は自分で着手したいテーマを優先するようになる、とのことでした。 一方で、企業や政府から予算をもらっている研究室は、その予算をもらうための研究テーマを遂行しないといけません。 結果として、自分で研究テーマを決められない下級生が、そのテーマを請け負い、自分で研究テーマを決められる上級生は、 自分のテーマを突き進む、という傾向にあるようです。
※予算をもらっている研究は重要だから上級生が担当するべきでは、と考えてしまう人もいるかもしれませんが、上級生は自分で研究テーマを選んで自分で突き進められるようになりなさい、という教え込みのほうが教育的観点からいって重要なのかもしれません。

博士後期課程への進学について。
ここコンピュータサイエンス学科では、博士後期課程に進学するほうが多数派で、何らかの理由で進学できなかった学生だけが博士前期で就職するそうです。
大学側としては、博士前期は人材育成のための投資であって、博士後期になってようやく研究の戦力になる、という意識が強いようです。露骨にいうと、博士後期課程に進学してくれないとモトがとれない、という意味を含んでいるようです。よって、どの先生も、学生の博士後期課程への進学を歓迎しているそうです。
アメリカの場合、博士号をとってからの就職の方が、給与も格段に高くなり、またやりがいのある職種を得られる可能性が高いそうです。この背景があってこそ、博士号を得るために研究に力を注ぎ、また単に研究を進めるだけでなく企業で通用するスキルを同時につけるそうです。
※このようなモチベーションを学生に持たせるためには、日本でも博士後期学生の価値の高さを企業に認めさせないといけないと思います。 私は以上のような観点から、大学院生に対する自分の教育力を高めないといけない、と痛感しました。

就職相談について。
学生の卒業後の進路については、教授も親身になって相談に応じるそうです。ただし学生には、企業に就職するか、大学に残って教員を目指すか、といった点については強くは主張しないそうです。 あくまでも学生の自主的な判断を尊重した上で、必要なアドバイスだけを出すそうです。
なおアメリカのコンピュータサイエンスの業界でも、大学に残って教員を目指したいのであれば、入学当初からそのつもりで学会発表を繰り返し、実績を重ねないといけない、後から目指そうと思っても遅いかもしれない、というシビアな面があるようです。
※ただし私のように、企業研究員から大学教員に転身する、という人はアメリカにも若干います。


■ 大学周辺の起業者 ■

別の大学のコンピュータサイエンス学科を卒業し、 3年間ロースクールに通い、その後デービス近郊でソフトウェア関係の会社を起業した知人に会うことができました。

その知人は日本人ではなく、アメリカ人です。なぜ面識があるかというと、お茶大に就職する前に私が勤めていた企業に、 彼が学部2年生当時にインターンシップで来ていたからです。 2003年のことでした。

その学生はプログラミングなどの基礎能力が高いだけでなく、人脈の活用にも長けていました。 彼はインターンシップなどの機会を通して、着実に人脈を拡げ、それを有効活用して自分のやりたいことを実現しながら、 学生生活を送っていました。私も彼のインターンシップ以降、彼の進学や就職活動に際して、何度も推薦書を作成したものでした。 そして日本が好きな彼は、インターンシップにかこつけて何度も日本に来たものでした。

そしてインターンシップから5年が経ち、とても偶然なことに彼の婚約者が私の出張先大学に勤務することになったそうで、 婚約者と一緒に生活するために、この土地でソフトウェアの企業を設立したそうです。

主力となるソフトウェア商品は、電子メールの機密性や信頼度を、技術的に詳しくないユーザにも親切に伝えるソフトウェアだそうです。 ここに、GmailとFirefoxを用いるユーザのためのダウンロードプログラムが載っています。

彼はここでも、私の人脈を利用して、大学のコンピュータサイエンス学科の、上記ソフトウェアに関連する技術を専攻する教授に会いました。 技術的な議論をするため、そしてこの土地に就職先を探す学生を紹介してもらうため、だそうです。

彼の会社について、私も2時間ほど話を聞いたのですが、彼は非常に多彩なビジネス形態を考えているようで、 また社員が増えたらどういう仕事をさせるか、という人材活用についても何通りかのアイディアがあるようです。

彼はアメリカのコンピュータサイエンス学科の研究教育について、 論文が学会に採録されることばかり考えるだけでなく、 社会やビジネスとの関連も考えてほしい と不満げでした。 私は、その点ではアメリカの大学は日本より進んでいるだろうと思っていたので、少し意外に思いました。 いずれにしても、彼は私にとって、そう多くない起業家の知人なので、彼のような人が大学に何を求めるか、引き続き聞く機会をつくりたいと思いました。

 

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