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小型情報機器のためのScroll Display

椎尾 一郎(しいおいちろう)

1. はじめに.

手のひらに収まる程度の大きさの超小型携帯コンピュータが、個人用情報機器(PDA)などの用途で活発に利用されるようになった。しかし、表示装置が小型であるため、大きな面積を持つオブジェクト(広いデスクトップ、WWWページ、新聞・地図・書類など)を閲覧・操作することが困難である。筆者は、超小型コンピュータに、指示装置の機能を組み込むことで、この課題を解決しようとした[1]。また、試作機を用いて評価実験を行った。

2.システムの概要

overview

図1.背面にマウス装置を内蔵した超小型コンピュータ

図1に本研究で提案する超小型携帯コンピュータの概要図を示す。コンピュータの背面にメカニカルマウスのボール機構を組み込んでいる。コンピュータを、机上で移動すると、移動量と方向がマウス部分で検出される。この移動量/移動方向だけ、表示内容をスクロールするようにプログラムすれば、使用者は、あたかも、大面積の書類の一部をのぞき見するウィンドウ枠を手にとり、見たい方向に移動する感覚を得ることになる(図2)。この結果、小さな表示画面であっても、直観的でわかりやすい閲覧操作を提供できる。

idea

図2.コンピュータの移動に従って内容をスクロールすることで、大きなオブジェクトの部分を表示する仮想的な窓枠を掴んで閲覧するユーザモデルを提供する。十字のポインターは、表示部分の位置を反映する位置に表示する。

 

3. オブジェクトの操作

3.1 ポインター

表示されるオブジェクトを指示して、直接操作を行うために、ポインターを表示する。ポインターは表示画面にほぼ固定されていて、ユーザは指示したいオブジェクト(たとえばWWWページのボタン)の真上にポインターが重なるまでコンピュータを移動し、ボタン操作により直接操作を行う。

3.2 メニュー

ボタン操作により表示するポップアップメニューに対しても、他のオブジェクトと同様に、ポインターを表示装置に固定し、コンピュータを上下に動かすことで、メニュー項目を選択する。表示装置に収まらない長いメニューの場合は、その一部を覗き見る操作になる。 (図3)

menumenu

図3.ポップアップメニューを表示し、コンピュータを移動すると、表示中央の項目が選択される。

4. 試作と評価実験

図4.試作した超小型コンピュータ。マウスを内蔵し、本体を移動することでオブジェクトの閲覧・操作を行う。

本方式による指示機構の有用性を確認する目的で、図4に示す試作機を作製した。ここでは液晶表示装置の右部分に小型シリアルマウス機構を付加している。最終的には単体で稼働すべきであるが、試作機ではノートブックPCに有線で接続し、オブジェクト操作プログラムをPC側で動かし、操作結果を試作機のディスプレイに表示した。
この試作機を10人以上のコンピュータ経験者に使用してもらった。その結果、小さな表示装置であっても、大きな地図や集合写真を直接的にスクロールできることが使いやすいと評価された。
また、6人の被験者を対象にFittsの法則[2]に基づく評価実験を行った。6人の被験者が、距離(D)が 5mmから320mm先の、幅(S) 5mmから40mmの目標を5〜10回選択するのに要した平均時間を図5に示す。距離が40mm以上の目標のほとんどは、操作開始時に試作機のディスプレイ(44.5x37.0mm)に表示されない。しかし、短距離の目標と同じ直線上にあり、Fittsの法則に基づいた結果が得られた。仮想的な窓枠を移動して閲覧するユーザモデルが有効に働いていると考えられる。

図5.Fittsの法則に基づいて解析した目標選択の所要時間

 

[参考文献]

[1] 椎尾一郎: '超小型コンピュータのための直接操作', 情報処理学会モーバイルコンピューティング研究グループ研究報告, Vol.96, No.MBL-3, pp.59-64,1996.11.21-22
[2] Stuart K. Card, Thomas P. Moran, Allen Newell, メThe Psychology of Human-Computer Interactionモ, Lawrence Erlbaum Associates Publishers, 1983.


[Scroll Display に関する発表論文]
  1. 椎尾一郎: '超小型コンピュータのための直接操作', 情報処理学会モーバイルコンピューティング研究グループ研究報告, Vol.96, No.MBL-3, pp.59-64,1996.11.21-22
  2. 椎尾一郎: Scroll Display:超小型情報機器のための指示装置、情報処理学会論文誌,Vol.39, No.5, pp.1448-1454, May 1998, 情報処理学会, ISSN 0387-5806
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  3. Asia Pacific Computer Human Interaction 1998 (APCHI 98), Japan, July 15-17, 1998, pp. 243-248, IEEE Computer Society, ISBN 0-8186-8347-3
    (このPDFファイル(136KB)はここ)(このPSファイル(382KB)はここ


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