IconSticker: 実世界に取り出した紙アイコン

椎尾一郎*1、美馬義亮*2
(*1玉川大学工学部、*2日本IBM東京基礎研究所)


IconSticker:
Converting Icons into Paper Icons in the Real World

Itiro SIIO*1, Yoshiaki MIMA*2
*1 Faculty of Engineering, Tamagawa University,
6-1-1 Tamagawagakuen, Machidashi, Tokyo 194-8610, Japan, e-mail: siio@eng.tamagawa.ac.jp
*2 IBM Research, Tokyo Research Laboratory,
1623-14 Shimotsuruma, Yamatoshi, Kanagawa 242-8502, Japan, e-mail: mima@trl.ibm.co.jp


Abstract :

In this paper, we propose an IconSticker for supporting seamless information management between computer screen and real world. The IconSticker is a piece of paper on which icon image and machine readable code (barcode) are printed. It is a real world representation of a computer icon. When it is scanned by a barcode reader, the original computer icon is accessed. Using IconStickers, a user can arrange icons in the real world. IconStickers can be pasted on desks, wall, bulletin boards, papers and link with computer information. The prototype of IconSticker system is also reported.

Keyword : Realworld computing; IconSticker; icon; barcode; paper interface


1.はじめに

デスクトップメタファーを採用したパーソナルコンピュータが普及し、アイコンで表現された情報をコンピュータ画面の中に配置して整理することが一般的になった。人々はデスクトップメタファーの画面が、実際のオフィス空間の延長であるかのようにアイコンを配置している。多くのユーザは「デスクトップ」(画面の地の部分)や浅い階層のディレクトリを、場所に基づいた情報整理が有用だという理由で、好んで使っている[1]。しかし、コンピュータ画面は有限であるので、一等地はすぐに使い尽くしてしまう[2]。

では、実際に人々が生活している空間を、コンピュータ画面の延長として利用したらどうだろうか。アイコンをコンピュータ画面の外へ取り出したり、取り出したアイコンに簡単にアクセスする手段を提供すれば、実世界にもアイコンを配置して整理することができる。

本論文では、実世界にアイコンを取り出す仕組みであるIconStickerを提案し、試作システムとIconStickerの応用について述べる。

図1. デスクトップメタファーの画面。アイコンを並べて情報を整理している。
fig.1 Modern computer users manage computer information by arranging icons on the screen.

2. IconSticker

現在のパーソナルコンピュータには、デスクトップメタファーのアイコンを、コンピュータ画面の外にとりだす手段がないので、アイコンを実世界に並べることはできない。アイコンを実世界に取り出すことが出来れば、画面の中だけでなく、実世界にアイコンを並べて整理し、情報を公開し、他人と交換することもできるであろう。

そこで筆者らは、アイコンを、紙のアイコンとしてコンピュータ画面から取り出して、実世界に配置する仕組みを提案する。この紙アイコンをIconStickerと呼ぶ。

図2: IconStickerの例。アイコンの図柄、名前、バーコードが28 x 89 mm のラベル用紙に印刷される。
fig.2 An example of the IconSticker. Bitmap image, name and barcode are printed on 28 x 89 mm sticker.

IconStickerはアイコンの図柄、アイコンの名前、機械が読める識別符号を印刷した紙片である。図2にIconStickerの例を示す。この例では、機械可読な符号としてバーコードを用いている。バーコード部分には、元になったアイコンを特定するための識別情報が含まれている。バーコードリーダー付マウスで走査すれば、あたかも紙でできたアイコンのようにアクセスして、コンピュータ画面で情報を閲覧することができる。

図3. IconStickerを使って画面の外にもアイコンを並べた様子。
fig.3 The IconSticker enables to arrange icons outside the computer screen.

画面の中のアイコンをIconStickerとして印刷することで、アイコンを画面の外に取り出し、実世界に配置することが可能になる。IconStickerは、糊付きのラベル用紙に印刷されるので、図3のように、ディスプレイ、プリンタ、キーボード、電話機、印刷物、CD-ROMなど、実世界の物に簡単に貼りつけることができる。

3. 試作

試作したシステムの概要を図3に示す。パーソナルコンピュータ(Macintosh 6100)のシリアルポートに、ラベルプリンタとバーコードリーダが、ADB (Apple Desktop Bus)ポートにペン型マウスが接続されている。ラベルプリンタはSeiko Instruments社のSLP2000[3](図5)、バーコードリーダはスポットロン社のBR-330/RS[4]、ペン型マウスは、APPOINT社のComputer Crayonである(図6)。

試作システムのプログラムは、Mac OS上でMetrowerks社の開発システムCodeWarriorを用いて、C++言語で開発した。プログラムには二つの機能がある。一つはドラッグ&ドロップされたMac OSのアイコンからIconStickerを生成して印刷すること、もう一つは、バーコードリーダからの入力を受け取ってオリジナルアイコンをMac OS上で開く機能である。以下でこれらの機能について説明する。

本プログラムは、画面の左下に、「実世界への出口」アイコンとして存在する(図4)。利用者がここに書類やアプリケーションのアイコンをドラッグ&ドロップすると、ディスプレイの脇のラベルプリンタがIconStickerを印刷する(図5)。このことで、あたかもアイコンを実世界に取り出すかのような操作を実現する。実際には、ドラッグ&ドロップされたアイコンの「エイリアス」に相当するIconStickerを取り出す操作になる。エイリアスは、Windowsのショートカット、UNIXのシンボリックリンクに相当するMac OSの機能である[5]。オリジナルアイコンの改名や移動などを確実に追跡できる特長がある。

図4. 画面内のアイコンを、「実世界への出口」アイコンにドラッグ&ドロップすると、このアイコンに対応するIconStickerが印刷される。
fig.4 By drag & dropping an icon onto the "exit to real world" icon, corresponding IconSticker is printed.

試作システムは、ドラッグ&ドロップされたアイコンのエイリアスを実際に内部で作成して、これを特定のディレクトリに格納している。作成時のタイムスタンプをエイリアスの名前にして識別している。タイムスタンプは、1秒単位の32bitの情報で、これを16進数表記した8文字の英数字がエイリアスの名前になる。

IconStickerには、図2に示すように、ドラッグ&ドロップされたアイコンのビットマップイメージ、名前および機械可読の識別符号が印刷される。識別には、生成されたエイリアスの名前を使用する。情報量が少ない(8文字)ことと、認識装置を安価で小型にしたいことから、機械可読の符号にはバーコードを採用した。このバーコードは、可変長の英数字を符号化できるCODE-39である[6]。8文字のエイリアス名に、スタート、ストップ、チェックディジットを加えた合計11文字長のバーコードが印刷される。

図5. IconStickerは、ディスプレイ脇に置かれたラベルプリンタで印刷される。
fig.5 A label printer by the display prints IconStickers.

デスクトップメタファーでは、画面のアイコンを指示してダブルクリックすると、その内容が表示される。アイコンがアプリケーションの場合は、アプリケーションが起動する。この操作を「アイコンを開く」と呼ぶ。IconStickerのバーコードを読み取った時に、コンピュータ内のオリジナルアイコンを開くことが、試作システムのプログラムの第二の機能である。バーコードリーダから入力があると、その名前のエイリアスを開くためのOS機能を呼び出す。

実際にIconStickerに対応したエイリアスが作られているので、IconStickerのバーコードを走査した結果は、エイリアスをダブルクリックで開いた結果と同一である。OSの標準機能をそのまま利用したので、操作に慣れたユーザなら、IconStickerの動作結果を容易に理解できる。

さらに、画面の中のアイコンを開く操作とIconStickerを開く操作を同じデバイスで行うことができれば、両者の存在を同列のものとするメンタルモデルの構築に役立つであろう。また、バーコードの走査とマウス操作に連続性があり、デバイスを持ち替える手間が不要という利点もある。そこで、現在の試作機では、ペン型マウスと、ペン型バーコードリーダーを組み合わせたデバイスを用いている(図6)。現在、通常のマウス装置に、バーコード読み取り装置を内蔵したデバイスを試作している。

図6. バーコードリーダーとメカニカルマウスが組み合わされたペン型デバイス。IconStickerのバーコード部分を読み取ると、元のアイコンがコンピュータディスプレイ内で開く。
fig.6 Combination of mechanical pen-mouse and barcode wand is used in the current prototype. By scanning barcode part of the IconSticker, the original computer icon is opened in the display.

4. 応用

IconStickerにより、アイコンを生活に密着した実世界に配置することができるので、ディスプレイの中に比べて、変化に富んだ多様な配置が可能である。たとえば、頻繁に使われるアプリケーションや書類のIconStickerは身近な場所、たとえばディスプレイの枠や、キーボードに貼りつけておけば、素早くアクセスできる。また、物に貼りつけることで、その物と特別な関係の情報と結びつけたり、単なる日用品の機能を強化することもできる。たとえば、IconStickerを:

  1. 印刷結果に貼って、オリジナルのファイルにアクセスできるようにする、
  2. 電話機に貼って、電話番号データベースにアクセスできるようにする、
  3. ディスプレイやキーボードに貼って、解像度、色数、キーボード設定などを行なう、制御パネルプログラムにアクセスできるようにする、
  4. プリンターに貼って、印刷キュー表示プログラムにアクセスできるようにする、
  5. マニュアルや製品に製造会社のURLアイコンを貼って、製品情報にアクセスできるようにする、

などの応用が可能である。以上の応用例は、図3に示されている。

IconStickerは紙そのものであるので、我々が長年紙に対して行なってきた数々の情報整理の手段が適用できる。たとえば、紙の書類と同様にクリップに挟んだり、他の書類やスクラップブックに貼りつけて整理することができる。またこれらをフォルダー、引き出し、書庫にしまって整理することで、紙の書類と同じように、重要度にしたがって分類整理して、アーカイブすることもできる。

従来、紙で行っていた情報の配布や共有もIconStickerで行なうことができる。たとえば、掲示板にIconStickerを貼りつけたり、葉書に貼って郵送したり、紙用複写機によって大量のコピーを配布したりできる。現在の試作システムでも、共有するアイコンをファイルサーバーに置けば、このような配布・共有が可能である。

博物館、美術館などで展示物(の近辺)にIconStickerを貼れば、音声、動画、ハイパーリンクを持つマルチメディア情報を提供することができる。コンテンツの作成に特別なアプリケーションは不要で、安価で使い慣れた通常のアプリケーションが使えることが利点である。

5. 関連研究

InfoBinder[7]は、机上にデスクトップ画面を投影するシステムで使われる小型の箱形デバイスである。これでウィンドウを閉じてアイコンにすると、アイコンがInfoBinderに張り付くように投影される。これもアイコンを実世界に手ごたえのある存在として取り出す試みであった。IconStickerはこの考えを発展させたものである。

MetaDeskシステム[8]では、机上に投影された地図に対して、建物をかたどった物理的なアイコン、Phiconを使って、スクロール、回転、拡大縮小などの操作ができる。IconStickerとは、手に持って扱える物理的なアイコンであるという点で似ている。しかし、IconStickerは、デスクトップメタファーのアイコンに対応する存在であり、オリジナルのアイコンへの結びつけ機能を提供しているという点で目的・機能が異なる。

バーコードを使って、実世界からコンピュータ情報への結びつけを行なうシステムに、NaviCamがある[9][10]。二次元バーコードとその周辺の場所をビデオカメラを通して見ると、文字、画像、三次元映像などが表示される。この他にも、バーコード[11][12]、無線タグ[13]、任意の文字や筆跡[14]などの機械可読のラベルを、コンピュータ情報への結びつけようとしているシステムがある。これらのシステムと比較して、IconStickerは、デスクトップメタファーでのアイコンが、そのまま機械可読のラベルとなって実世界に現れるので、オーサリングが容易であるという特徴がある。

6. 今後の予定

バーコードリーダ内蔵マウスの開発や、ネットワーク対応の拡充を予定している。また、個人向けの応用だけでなく、複数の人による情報の交換・共有や、博物館案内システムや機器へのメモ書きなどの応用も検討したい。

[参考文献]

[1] Barreau, D. and Nardi, B. A.: Finding and Reminding: File Organization from the Desktop, ACM SIGCHI Bulletin, Vol.27, No.3, July 1995.

[2] Fertig, S., Freeman, E. and Gelernter, D.:“Finding and Reminding” Reconsidered, ACM SIGCHI Bulletin, Vol.28, No.1, January 1996.

[3] Seiko Instruments USA Inc.: http://seikosmart.com/products/slp.htm.

[4] スポットロン株式会社: バーコードリーダBR-330/RS取扱説明書.

[5] Apple Computer, Inc.: Inside Macintosh CD-ROM, Addison-Wesley, ISBN 0-201-94611-4, 1995.

[6] http://www.barcode.co.jp/barcode/code-39.html, または, http://www.hp.com/HP-COMP/barcode/sg/Misc/code_39.html.

[7] Siio, I.: InfoBinder: A Pointing Device for Virtual Deaktop System, Proceedings of HCI International ‘95, pp. 261-264, Elsevier Science, July 1995.

[8] Ishii, H. and Ullmer, B.: Tangible Bits: Towards Seamless Interfaces between People, Bits and Atoms, Proceedings of CHI’97, pp. 234-241, ACM Press, March 1997.

[9] Rekimoto, J. and Nagao, K.: The World through the Computer: Computer Augmented Interaction with Real World Environments, Proceedings of UIST’95, pp. 29-36, ACM Press, November 1995, .

[10] Rekimoto, J.: Matrix: A Realtime Object Identification and Registration Method for Augmented Reality, Asia Pacific Computer Human Interaction 1998, pp. 63-68, IEEE Computer Society, July 1998, .

[11] 脇田敏裕, 長屋隆之, 寺嶌立太: 二次元コードを用いたWWWと紙メディアとの融合の試み, 情報処理学会研究会報告98-HI-76, 1998.

[12] Lange, B. M., Jones, M. A., and Meyers, J. L.: Insight Lab: An Immersive Team Environment Linking Paper, Display, and Data, Proceedings of CHI’98, pp. 550-557, ACM Press, April 1998.

[13] 綾塚祐二, 暦本純一, 松岡聡: UbiquitousLinks: 実世界環境に埋め込まれたハイパーメディアリンク, 報処理学会研究会報告96-HI-67, 1996.

[14] Arai, T., Aust, D., and Hudson, S. E.: PaperLink: A Technique for Hyperlinking from Real Paper to Electronic Content, Proceedings of CHI’97, pp. 327-334, ACM Press, March 1997.