ご紹介に預かりました、伊藤です。本報告は自分の科目の評価をどうしているかということだけに徹した私個人の事例報告ですので、理学部はこういう人が多いという意味では決してございませんのでご了承ください。
私の担当科目ですが、LA科目「コンピュータが創る色と音」とコア科目「情報処理学」、それから2年生以上の情報科学科の専門科目を3つ担当しています。便宜上、上を基礎科目と呼ばせていただきまして、下を専門科目と呼ばせていただきます。
まず、「基礎科目」ですが、どちらもコア科目とLA科目ですので全学的な履修者を想定した初歩的な科目で、基本的には座学です。
LA科目ではまず、コンピュータ・アートとかコンピュータ・ミュージックの原理を紹介して、それが芸術の歴史や、人間の感性、メディア・リテラシーという社会学的な面などとどう関係あるか、という文理融合的なお話をしています。
コア科目の方は、今年から担当し始めたので、まだ全部できあがっていないのですが、情報処理の仕組みに絡めて、こんなことを知っておくと就活のセミナー等の講演内容がわかりやすくなるという知識や、日常生活に情報技術がこれだけ普及していますという生活者視点な話をさせていただいています。
どうやって評価しているかですが、基本的には定期試験の点数重視ですが、それとは別に講義期間中に小テストをやっています。これらの試験は全部論述式なのが特徴で、計算問題のような理系的な試験は一切やらないということにしています。ほとんど自由記述で、履修者自身の言葉で説明させるような設問にしています。好きなように書け、という感じなのですが、実際には配点に際して、これが書かれていれば2点、これが書かれていれば2点・・、というように、詳細にチェックポイントを設けておりまして、極論すればTAでも点数が付けられるような仕組みにしています。
今年から担当した「情報処理学」では、新しい試みで自由課題のレポートというものを課しています。架空の情報処理システムを自由に想像して、その機能や構造を説明する仕様書を作れという課題を与えています。お茶大の猫の写真のコンテストという架空のシステムの仕様書をサンプルに与えていまして、そのサンプルの中には「このシステムにはこういう機能がある」というような仕様を記述しているのですが、それに対抗するような面白いシステムを考えてその仕様書を作ってください、というようなレポートを出しています。
ただあくまでも、採点はアイデアよりもチェックポイント中心で、機能が現実的であるか、記述に誤りがないか、など、客観的な観点を重視しています。つまり実際には、アイデアを求めるような設問にしておきながら、できるだけ創造性と客観性を両立させるような科目設定をめざしているところです。
続いて「専門科目」ですが、こちらはほとんど情報科学科の学生しか履修者がいませんので、内輪ならではのやり方をしています。まず、毎週の最初の10分間に、先週の内容を2問ぐらい解く小テストをやっています。目的としては、まず先週の内容を思い出してもらうということ。それからもう1つは、自分で教室中歩いてまわって回収することで、学生の顔と名前を照合して覚えることにあります。半期一科目で学科の40人のうち出席率のいい学生は大体覚えますので、その次の科目からは名前で呼べるようになるというわけです。これを100点満点のうち、小テスト1回5点で合計60点ぐらいで採点しています。
そして定期試験を実施しない代わりに、自由課題をやっています。これもコンピュータのプログラムをサンプルとして見せて、それを参考にして自由に作れということにして、提示したサンプルのプログラムとの完成度を比較することによって客観評価をしています。ですから、サンプルと同程度の技術力をBにして、それより上だったらSかAと、下だったらCという点数の付け方をします。
さらに、「マルチメディア」という2年の必修科目では、発表会というものをやりまして、これも先ほどの「情報処理学」と同じように、架空のマルチメディア技術に関して自分で自由に考えて、自由に発表資料を作って、人前でプレゼンします。これも全部チェックポイントがありまして、まず概要があって、先行技術を調査して、それから技術の中身がどうなっているかという詳細があって、それでも解けない課題は何であるか、という4項目を設問にして、それぞれの設問に部分点を与える形式で評価をしています。
続いて、せっかくの機会ですので、自由課題ではどういうものをやっているかという例をお見せいたします。2年生の「マルチメディア」の自由課題は、自己紹介のWEBページを制作させるということをするのですが、凝っている学生は非常にいろいろなものを作ります。1週間のアメリカ旅行記をこうやって1日目、2日目、3日目、4日目という具合にきれいにレイアウトして写真を並べている学生や、地元の愛媛県今治市を細かく説明してくれているページなど、こんなようなWebページを作ってくれている方がいます。
それから、3年生の前期科目に「コンピュータ・ビジョン」という科目があり、携帯やパソコンの壁紙と呼ばれる背景画像を、コンピュータのプログラムで自由に写真を組み合わせ、かわいい壁紙を作ってください、ということをやります。どういう意味かといいますと、虹の画像だけが1枚あって、猫の画像だけが1枚あって、足跡の画像があって、背景の画像があって、それをプログラムで組み合わせてそれから半透明にしたり、変形したり、位置合わせしたりして、そういうこと全部プログラムを書いて完成させるというような課題です。これもサンプルを超えるいろいろな技術を駆使して、夏休みに何日も学校に通って、このような形にして提出してもらう、ということです。
それから、3年後期の「コンピュータ・グラフィックス」という科目は、先ほどの3次元版で、全部立体的になっていまして、3次元的に動きます。たとえば、これですと、フラッシュしながら観覧車がクルクルゆっくり回って星がキラキラ出てきます。こちらは、鳩時計で、こうやって動いている鳩が突然ポコッと出てくるというような仕掛けを、コンピュータのプログラムで作るという授業です。
あくまでも採点は、サンプルに比べて技術力がいいか悪いか、あるいはサンプルにない技術を取り入れているかどうか、というところでやっているので、客観的な評価ではあるのですが、自由な発想で楽しく考えた人が、ゴールに向かっていろいろ調べて自分で技術を開拓していきますので、最終的にはやはり面白いものを作った人は、技術力も優れていて、結局、客観評価でもいい点がとれるというような相関性の高い状況にあります。
ここまでをまとめていきますと、私の科目の評価基準は、計算問題のような本当に定量的に評価できるようなものはあまり使わずに、論述試験や自由課題を中心にしています。目標としては、もちろん理解力が必要なこともそうなのですが、創造性を保つことのできるタイプの科目が多いので、やはりそこを試してみたいなと思っています。ただし採点は、チェックポイントを最初からできるだけしっかり設けて、客観的にして説明責任を果たせるような点の付け方をめざしています。
これが就業力とどう関係あるかということなのですが、まず論述試験を中心にするということで、時代の流れにからめて自分の意見で論述をするという力が、就業力に関係あるのではないかなということ。
それから自由課題や未来のシステムを想定して説明書を書いたりプレゼンをしたりする中で、未来の技術に対する自律的な発想力や提案力ですね。情報処理系の会社に勤めますと他社にない新しいシステムを考案する力、それをお客さんに提案する力というのが求められますので、そういう意味での就業力につながるということです。
それから、コンピュータのプログラムを書くというのは、どうしても1,2年生のうちは文法や仕組みを習うのが中心で、英語でいったら文法問題みたいな、決められたものを書くという課題に終始しがちなのですが、もっと自由課題にして自分の好きなものを作らせることで得られる「実際に使いこなせるプログラミングの技術力」も、就業力に関係あるのではないかなというふうに思います。
最後に、課題が2つあります。基礎科目については、実は文系学生の方が、平均点が高い傾向にあります。わざわざ理系科目を履修する学生なので、そもそも勤勉であるということもあるでしょうし、暗記科目であり、論述試験なので、やはり文系学生が有利だという面もあります。
にもかかわらず、科目のアンケートには、文系学生にもっとアピールすべき科目である、とよく書かれるのが1つ目の課題です。おそらく、自分の友達もとればいいのに、という意味だと思いますね。コンピュータということで、尻込みする文系学生がいるのか、それとも両科目とも月曜1限なのでそれが敬遠されているのか、理由はわかりません。
あと専門科目の課題ですが、先ほどの水野先生の話に共通するのですが、学年によっては全然点差がつかないことがあります。今年の情報科学科の2、3年生はとても勤勉で、僕の科目に限っていえば、40数人いるうち欠席者が毎週平均1名です。ほとんど全員から毎週小テストが集まってくるので点差が開かないというようなことがあって、頑張っている学生が、周りの学生との点差が開かないことに不満をもたれるのではないかな、ということを少し懸念しているところです。
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