Report Vol. 4
第4回:大学教員が海外に滞在する意義
多くの大学教員は、一生のうちに何度か、数か月から1年くらいにわたり、本来の職場を離れて別の研究機関を訪問する機会を得ます。
日本人の多くは、この機会を利用して、アメリカやヨーロッパの大学や研究所に赴任します。
アメリカの大学では、この制度をサバティカルと呼び、多くの現場において半義務化しています。
では、職場を放置(?)してまで別の研究機関を訪問するサバティカルの意義は、どこにあるのでしょうか。
私なりの解釈では、サバティカルの意義は、
自分と異なる専門性を有する研究者と共同作業をすることで
新しい知識を身につけ、研究者として一回り大きくなる
という点にあるのではないかと思っています。
そもそも、日頃の忙しい業務から逃れて、
好きな研究に没頭して、新鮮な日常生活を送ることができるんですから、それだけでも素晴らしい機会ですよね…。
私の訪問は正式にはサバティカルではありません。 しかし、せっかくの訪問の機会なので、現地で新しい研究プロジェクトを始めることで、サバティカルを模擬体験することにしました。
デービス校に到着して私はすぐ、Ma教授と相談して、ここで新しい研究を始めたい、ということを議論しました。
その結果として、たまたま出発直前にお茶大の同僚教員からお預かりしたデータを題材に、新しい技術を開拓する、という研究テーマに着手することになりました。
研究成果の一つとして、以下の画像をお見せいたします。ただし未発表の研究成果につき、画像はグチャグチャに加工されていますが、ご容赦ください…。
すみません、こんな画像じゃ、見せる意味無いですね…。
今回の滞在中の研究の進め方は、少しプログラムを書くごとに、その動作結果を教授と学生にメールで送り、コメントをもらい、 そのコメントにしたがってプログラムを書き進める…ということの繰り返しでした。
私は毎日のように、教授からたくさんのコメントを受け、また私自身も課題を見つけ、それを一つずつ消化するようにプログラムを書き続ける、という日々を送りました。
この日々はまるで、私が大学院生に戻り、私よりもずっと世界的に有名な教授の指導を受ける、ということの疑似体験 のように感じられました。
Ma教授は非常に忙しく、外出も多い人なのですが、大学にいる日は毎日必ず、決まった時間帯に学生室に来て、いろんな会話を交わしていきます。 学生も多いので、一人一人と話す時間は限られているのですが、その中で非常に的確な一言一言を残しています。
Ma教授の研究室に限らず、コンピュータサイエンス系の研究室の多くでは、研究室のリーダーを ディレクター と呼びます。 確かに、ここでの教授の存在は、単純に学者であるにとどまらず、 現場監督であり、営業マンであり、オピニオンリーダーである というのが非常によくわかります。
「せっかくだから」ということで現地でも始めた研究活動は、自分が学生だったら何を言われたときに何を考えるか、
そして自分が教員の立場に戻ったとき、自分はどんな能力をもっとつけるべきか、
学生に何を言うのが効果的なのか、などを考えさせる絶好の機会となりました。
ひょっとしたら、この研究活動自体が絶好のFD(Faculty Development)であった といえるのかもしれません。
ところで、3年生以下の方にはピンとこないかもしれませんが、研究活動は成果が出るだけでは意味をなしません。 それを発表して、多くの人に告知することで、初めて意味をなすものである、と(少なくとも私は)考えています。
私の滞在期間の6週間目にあたる10月10日に、この研究分野においてレベルの高い学会の投稿期限がありました。
Ma教授からは、そこへの投稿を指示されました。
1か月強という短い期間で、
- 新しい研究テーマにおける課題をあげ、プログラム開発の計画を立てる
- 類似する既存手法を調査し、それらに対する優位性をアピールできるようにする
- 新しいプログラムを開発する
- 開発したプログラムがいい結果を出せるように調整する
- 新しいプログラムと既存プログラムの性能差などを実証する
- 英語の論文として書き上げる
という作業を全うするのは、とても忙しいことでした。
しかし、日本の同僚の先生から非常に面白い課題をいただけた、またそれに近い分野で研究成果をあげている現地学生と多くの議論ができた、
という2つの幸運にも恵まれたおかげで、現地での新しい研究を論文に書き上げて、学会に投稿することができました。
この経験と成果をぜひとも、帰国後の研究活動につなげたいと思っています。
ついでに、こちらでの典型的な1日の過ごし方について紹介します。
朝は5時に起床して、日本からのメールの返信に充てました。 私の知人は(同僚、研究仲間、学生、旧友など、いずれも)夜の9時や10時にメールを読んでいる人が多いため、アメリカの朝5時にメールを送信すると、 受信者は即座にそのメールを読む、ということが多く、結果として日本とのコミュニケーションも迅速に消化できました。
夕方は週2回程度のペースで、研究室の学生とSkype(インターネット電話の一種)で会議を開きました。 それがない日には、スーパーマーケットに食料を買い込みに行くことが多かったです。 あるいは、フリスビーを投げたり街をサイクリングしたり、といった余暇に充てました。
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